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8話

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授業終了のチャイムが鳴るまで

レミちゃんとさきにからかわれたが、嫌な気分ではなくて

バカと言われたことすら、幸せに思えてしまった。




お昼を挟んで午後の授業は、LHR。


村瀬むらせ先生が教室にくるこの時間が、私は大好きだった。


というか、勉強をしないといけない数学よりも、断然LHRの方が好きで

週の中で一番楽しみにしているかもしれない。




「―――さて、来月は遠足だ。だから、グループとバスの席決めをする。どうやって決めるか案を出せ」



今回のLHRは、来月の遠足のことを決めるらしい。


が…


村瀬先生は、進行する気がないみたいで

学級委員2名を前に呼び出して


「あとはよろしく」


と、2人に丸投げした。


任された2人は、困ったように顔を見合わせているが

村瀬先生は、教室の端に置かれた簡易イスにどかっと座って腕を組み、目をつむっていて、我関せずといった様子。



さっき村瀬先生の授業が楽しいって言ったとき、嬉しそうにしていたから

やっぱり教師なんだなーと思っていたけど…

勘違いだったかもしれない。



結局、クラスで案を出した結果

当日は好きな人同士でグループを組んで、そのグループの中で、自由にバスの席を決めることになった。



グループは、咲とレミちゃんと私の3人ですぐ決まったけど…



問題は、バスの席だ。



「うーん、どうしよっか…」



こういうとき揉めるのは、1人余ってしまう奇数のグループ。


私たち以外は、奇数グループがないみたいで、すんなりと決まっていた。



「やっぱりここは、公平にじゃんけん?」



「うーん、負けた人は悲しいけど、それがいいよね」



まだ私たちは15歳。

「1人でいいよ!」 と言えるほど、大人な人はいない。



「よし、じゃんけんで決めよう!」



公平にじゃんけんで決めることになり

手に汗握る戦いが、今始まる―――




なんて、そんなオーバーな話ではないけど、バスの席決めというのは重要。


だって遠足って、バスの時間が一番楽しいと思うから。


1人ぼっちなんて、絶対つまらない。




「よし!  じゃあ行くよ…!」



「「最初はグ~!  じゃんけん―――」」








―――思い出した。


私、こういうとき、絶対に負けるんだ。



小学校のときも、中学校のときも

好きな人とペアを組むとなると、絶対にじゃんけんで負けて1人余る。


クジ引きで決めても、なぜか私の隣はなじみのない子

小中学校合わせて9回あった遠足と、2回あった修学旅行は、バスの時間を楽しめていない。


だから、今回こそ!  と思ったのに…。




「あははっ、美羽みうまーた負けてる」



「美羽ちゃん、私、代わろうか?」




1人になった私を笑うことも、誰かが気を遣って代わろうか?  と言ってくれることにも、慣れた。



そもそも、どうして遠足って新学期にあるの?


まだクラスに慣れていないときに遠足なんて…

しかも、入学したばかり。


クラスになじめていない子の気持ちを、先生たちは考えていないんじゃないかと思う。 


きっとこれを機会に、親睦を深めて友達を増やしましょう!

ということなんだろうけど


こんなので親睦が深まったら、誰も人間関係で苦労しない。


学年の最後にあれば、クラスメイトと仲良くなっていて

誰とグループになっても、誰とバスの席が隣になっても、楽しめるだろうし


最後の行事ってことで、親睦も深まると思うのに…




なんて、遠足に文句を言っても仕方ない。




「村瀬先生、私余っちゃいました…」



相変わらず、腕を組んだまま目をつむり


起きてるのか寝てるのかわからない村瀬先生に、余ったことを伝える。


他のクラスのバスに乗れとか言われたらどうしよう。


バスの座席表見る限り、空いてる席はない。



1人だけ他のクラスのバスに乗った経験がある私は、不安で胸がキューっと締め付けられる。





「なんだ、澤井さわいが余ったのか」



村瀬先生は、声を掛けるとすぐに反応した。



「はい…。あの~私、他のクラスのバスとか嫌ですよ…?」



「いや、他のクラスも満席だからそれはない。澤井はここだ」



トンと座席表を差す村瀬先生。

他のクラスのバスじゃないことに安心したが…




ちょっと待って、その席…



「あの~…そこ、教員って書いてますよ?」



村瀬先生が指差したのは、1番前の‘‘教員”と書かれた席だった。



「ああ。澤井は俺の隣だ」



…何だって?



「ちょ、何でですか?!」



「何でって、他に席がないから」



「えっ?!  いや、…えっ?!」



「言い忘れてたけど、このクラス、1人余るんだよ。他のクラスはピッタリで余らねえ。学年主任が、このクラスのためだけに、大きいバスを借りるのは、もったいねえって言うから、余った1人は、担任の隣ってことになった」



「それが、私ってことですか…?」



「そういうこと」




何てことだ…。


学年主任が誰だか知らないけど、ケチるなよ!

何でそこケチる?!


大きいバスにしようよ!

というか、うちのクラスだけ大きいバスにしたらいいじゃんか!


1台くらい大きいバス借りてよ!



ケチな学年主任に怒りがこみ上げてくるが、ふとあることを思い出す。




「待ってください。副担任はどうするんですか?」



私の記憶が正しければ、頭がツルツルの副担任がいたはず。


私が村瀬先生の隣に座ったら、副担任が座る席はないよね?




「ああ。副担任は別のクラスに乗る」



「…そう、ですか」



まあ、私が別のバスに乗るよりマシだけどさ…

でも、本当に村瀬先生の隣に座るの…?





「何だよ、そんなに俺の隣が嫌なのか?」



フッと笑いながら言う村瀬先生。



嫌…じゃ、ない。

むしろ嬉しい…。


神様が、不運な私にくれた、最高のプレゼントなのかもしれない。


そのくらい、嬉しいし

舞い上がってしまいそうだけど…


まだ当日でもないのに私の心臓は、ドキドキと激しく音を立てていて


こんな調子で当日を乗り切れるのか、不安になった。


だってバスの席なんて、ちょっと動けば隣の人に体が触れてしまうくらい近いんだよ…? 


そんな至近距離に村瀬先生が…。


しかも、遠足で行く場所を見ると、移動時間はそれなりに長い。



長時間、村瀬先生が至近距離に…。



ダメだ…考えただけで倒れそう。



「当日、遅刻したら問答無用で置いていくから、ちゃんと時間通りに来いよ」



意地悪く笑う村瀬先生に、「はい」と返事をすると



「―――じゃあ、今日のLHRはこれで終わりだ」



村瀬先生が教卓へ立ち、授業を締めた。



残念ながら咲とレミちゃんの2人とは席が離れてしまった。


けど幸か不幸かわからないが、片想い中の村瀬先生の隣に座れることになった。




そういえば、バスの席を窓側にしてほしいって言うの忘れちゃった…。




言おうと思ったとき、村瀬先生がタイミング良く教室から出て行く。




追いかける…?

いや、明日言えば良いかな。




明日の昼休み、村瀬先生のところへ行こうと決めた私は、楽しみができて心が躍った。




その頃、咲とレミちゃんは―――




「ニヒヒッ、見た?  美羽の真っ赤な顔」



「うん!  可愛いね。成功だね!」



「ね!  うちらの作戦、大成功じゃん!」



「ねー!」



私を見て、そんな話をしていた。


この件は、2人によって仕組まれたことだと知るのは、まだ先のこと―――。