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第五話 お隣さんと休日と美少女

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「あかり~ん!遊ぼうぜ!!」


 朝からやたらハイテンションで現れたのは日向君だった。髪は相変わらず金髪で眩しい。


「あら?灯ちゃんのお友達?」


「え!?誰!?あかりんのお姉様っすか!?」


「お母さんです。灯ちゃんがお世話になってます。」


「え!?お母様!?マジ!?スゲー美人っすね!!」


 母の登場でさらにテンションがあがった日向君、その後ろから顔を出したのは奈々ちゃんだった。


 ああ、なんか凄く冷たい目で見られてるよ?日向君?


「あいつマジうるせぇ…朝から人の家来て『暇なら遊ぼうぜ!』ってやたらハイテンションで引っ張り出してさぁ!何なの?あのテンションと行動力!!」


「まぁ…日向君はいつもああだからね。蒼にもその明るさを分けて欲しいよ。」


「日向の方が雛森君の冷静さを貰った方がいいんじゃない…なんであいつと同じ団地に住んじゃったんだろ。最悪!」


 いつものツインテールもせずそのまま。奈々ちゃんは本当に着の身着のまま連れ出されたらしい。


 なんでも奈々ちゃんが住んでいた団地に日向君が中学の時越して来たとかって話だ。同じ棟で部屋も近いので高校、ついでにクラスも一緒になってからやたら懐かれているとか。


 日向君も誰に対しても全力投球だ。なんだかんだで認めさせちゃうから凄いんだけど。あの蒼に真っ先に話しかけ懐いたくらいだし。


「夏、お前何してるんだ?」


「おお!蒼!!今あかりんのお母様と親睦を深めてたんだけどさぁ!超美人じゃね?紫さんもそうだけど!」


「…仕事の邪魔するなよ。すみません、おばさん…こいつ本当に何も考えず本能的に行動する奴なんで放置しておいても大丈夫ですから。」


「放置はやめて!俺寂しがり屋なの知ってるだろ~!!」


「…なら店手伝え。葉月まで引っ張り出してどうせ暇なんだろ?」


「え?いいけど?」


 こうしてなんだか賑やかな店内となったのだ。


 休日の商店街は地域密着型とはいえ結構賑わい活気に溢れていた。


 そんな中、花屋『FOREST FLOWER』はというと…


「え!?二人ともお子さん持ちなんですか!?マジで!?」


 日向君は相変わらず調子が良く、明るい笑顔でお世辞を言いまくるのでマダムなお客様達から人気を集めつつあった。


「いやだわぁ!褒めたって飴しかでないわよ~!!」


「私ここで花買っちゃおうかしら!」


「たまには家に花飾るのも悪くないわねぇ~!!」


 と、次々と財布を出しミニブーケやら花束やらを買っていくマダム達。日向君、やるな…。


 それに比べ蒼は…


「え?ここのバイトさんじゃないんですかぁ!?」


「今度いつ手伝いに来ますか?」


 買い物に来た女子高生や女子大生のお姉様方に質問攻めに合い戸惑っている…多分。


 本当無駄に顔が良いって得だな…でも蒼が店頭に立つだけで売り上げが伸びるのは事実で、愛想が無くても仕事をきちんと要領良くやってくれるから助かるのも事実だ。


 あ~あ~…キラキラうっとりの女子達を前にしても冷静無表情を貫き通す蒼って。にこりともしないこの男のどこに魅力を感じるんだろう?


『俺はお前の面倒を見るのが合ってるんだよ』

 

 今朝蒼はそう言ったけど…本当にそうなのかも。学校でも女子と話すより男子(主に日向君)と話している時の方が楽しそうに見えるし。


 そう考えると…もしかしてわたしって蒼にとって唯一の特別な女子なんじゃ…


 冷静に対応している蒼を盗み見しながら、ふとそんな乙女なことを考えてしまう。その他に特別仲の良い女子がいただろうか?いや。わたしが気づいていないだけか…。


「あれ~!?雛森君?偶然~!!」


 流行りのゆるふわヘアーに小さな顔、大きな瞳…そしてミニスカートから見える脚は細く華奢で美しい。なんだ?このアイドル顔の美少女は!?


 まるでブラウン管の向こう側から抜け出てきたような…そんな完璧な美貌とスタイルの持ち主が目の前にいるなんて。しかも蒼の知り合いって…


 群がる女子達はあっという間に散って行き、それと入れ替わるようにその美少女は蒼に近づいて来た。とびきりの笑顔を浮かべて。


「日向君もどうしたの?二人でバイト?」


「あ!杏ちゃん!!」


 日向君とも知り合い?ってことはこの子ってもしかして例の美少女マネージャー!?


 わたしの予想を遥かに超えたその子を見て、なんだか急に悲しくなって来た。だって、奈々ちゃんならまだしもわたしとじゃまるで月と鼈のようだもん。


駒井杏奈こまいあんな じゃん…」


「え?奈々ちゃんも知り合い?」


 笑顔で楽しそうに話している美少女を見て、奈々ちゃんは微かに舌打ちするとわたしの耳元で囁く…


「学年のマドンナだよ。ついでに陸上部のマネージャーで、雛森君のこと狙ってるって噂だよ?」


「え!?嘘!?」


「やっぱショック?」


「わたしの妄想…いや予想が命中したよ奈々ちゃん!凄くない!?」


「驚くのそっち!?」


「他に何があるの?」


 想像していた通りのことを言われ興奮隠せないわたしに対し、奈々ちゃんは腰に手を当て呆れている…まるでアニメのワンシーンみたいだ。


 それによくあることだ。こういう展開って。蒼はモテる…イケメンだから。ついでにあの無表情で冷静なところもミステリアスで素敵って評価されちゃうから凄い。


 それに蒼が彼女をどう思っているのかは分からないけど、わたしは蒼に恋愛感情なんて持っていない。恐らく蒼も同じだろう。


 だから…いきなり『ショック?』って聞かれても…正直困るだけだ。だって恋愛対象として見たことないし。


「…灯、ちょっと来なさい。」


「は?でも仕事…」


「おばさま~!!あたし達ちょっと休憩してきてもいいですかぁ?お腹すいちゃったから買い食いしてきまぁ~す!!」


 戸惑うわたしの肩を引っ掴み、奈々ちゃんはとびきりの笑顔で母にそう言うと店を出た。わたしを引きずったまま。


「あれ?今のって葉月さんだよねぇ?一緒にいるの誰?」


 ようやくわたしと奈々ちゃんの存在に気づいたのか、美少女駒井さんはそそくさと店を後にする様子を見ながら首を傾げた。


「あ~!あれはあかりん。蒼の娘?」


「へ?」


「いや、娘は言い過ぎか…妹?」


「雛森君妹さんいたんだぁ!?けど似てないね。ちょっと地味っていうか…」


 ちょっと棘のある言葉を吐きながらも、駒井さんは相変わらず笑顔だけど…


 ここにわたしがいて聞いてたらちょっと傷ついたな。分かってはいるけど…


「…花森灯。俺の幼馴染みだ。」


「え?幼馴染み?」


「そうそう!ついでにお隣さんなんだよなぁ!四六時中ほぼ一緒に過ごしてる!!」


 と、最後に余計なことを言う日向君。蒼に無言で頭を叩かれたけど。


「色々とお世話になってるだけだ…主におばさんに。あいつには全くお世話になってないし。むしろ俺が面倒みてやってる…」


「へ、へぇ…大変だねぇ…けどそこまで面倒見る必要あるのかなぁ?ただの幼馴染みでしょ?」


「あいつ、俺がいないと駄目だし…というか放っておいたら何するか心配だ…放置できない。」


 蒼はわたしをなんだと思ってるんだろ?そんな危険人物扱いしなくても…うっかり転んで怪我したりするくらいだと思う。


「仲良しなんだねぇ!いいなぁ~!!そうだ、今度花森さん紹介して!杏奈もお話ししてみたいし!!」


「…どうだろうな。あいつは人見知りするし…」


「え~!?そんなの杏奈のトーク術で何とかするって~!!」


 笑顔でそう言うと駒井さんはお願いとうるうるした瞳で蒼を見つめた…


 なんだかわたしの知らないところで、よくわからない展開が起きているようだ。


 そんなことを知らないわたしは、奈々ちゃんに連れられ本当に食べ歩きしていた。片手には揚げたてのコロッケがおいしそうな匂いを漂わせている。


「あいつ性格悪いよ。」


「え?何が?」


 コロッケ片手に奈々ちゃんは名探偵の如く顎に手を添え呟いた。ちなみに今はポニーテールに結んでいる。食べるときに邪魔になるらしい。


「駒井のこと。中学一緒だったんだけどさ…そん時からモテてたんだよね。あいつ。」


「可愛いもんねぇ!ゆなたんみたいだったもん!!」


 ゆなたんとは今人気のアイドルである。これ、補足までに。


「顔だけは…昔から可愛い可愛いってちやほやされてる奴ってさ、自分が一番でなんでも思い通りにならないと気に入らないわけ。まさにあいつがそれ。」


「奈々ちゃん駒井さんと何かあったの?」


「別に…あたしはあんな奴相手にしないし。むしろ喧嘩売って来たのはあいつの方だし。顔の割に性格がさつとか、男勝りなふりして男に取り入ってるとか…思い出すだけでムカつくわ!」


「な、奈々ちゃんコロッケ!!潰れてる!!」


「げっ!?あたしの牛肉コロッケがぁ~!!くそっ、これも全部あの二重人格女のせいだわ!!」


「…ま、まぁ落ち着こう?わたしの男爵コロッケちょっとあげるからさ!!」


 奈々ちゃんの逞しい握力で無残に潰れたコロッケの残骸を眺めながら、わたしはそっと手にしていたコロッケを差し出してあげた。


 奈々ちゃんも可愛いからきっと駒井さんが嫉妬しちゃったんだ…美しいってやっぱり罪なんだなぁ。憧れるけど。


「とにかく!灯も気を付けた方がいいよ?あの女絶対何か仕掛けてくるはずだから!」


「え?なんで?」


「なんでって!あんたが雛森君の傍にいるから!!一番雛森君に近い女子なんてあんたくらいしかいないでしょ!!」


「…え?なんでそれだけで?」


「だ~か~ら~!!駒井が雛森君のこと狙ってるって言ったでしょうが!!だから邪魔なの!傍をうろつく目障りな女なの!!あの女にとって灯は!」


 と、男爵コロッケに呑気にかぶりつくわたしの目の前に、奈々ちゃんはビシッと人差し指を突き付け宣言したのだ。


 名探偵が『犯人はお前だ!!』と言わんばかりの迫力で…


「そう言われても…わたしは別に蒼の事なんとも思ってないし、蒼もそうだろうし…」


「そうなの?」


「そうだよ!そんなんあるわけないじゃん!!」


「…でも油断は禁物よ。」


「そんな心配しなくてもさぁ…説明すればちゃんとわかってくれるって!」


「甘い!!」


「駒井さんも人間だもの。」


 のほほんとそう言うわたしの手から、奈々ちゃんは素早くコロッケを奪い口に放り込んだ。


「何するの奈々ちゃん!?自分のコロッケ握りつぶしたからって奪うことないじゃん!!」


「ごめん…なんかあんたののほほんぷり見たら急に…」


「酷いなぁ…」


「奢ってやるから…はぁ、ま!あいつが灯に何かして来たらあたしが守ってやるか…安心しな!」


「奈々ちゃん恰好良い!!本当男だったら絶対惚れてるよ!」


「任せときな…」 

 

 こうして、何故かこっちはこっちで奈々ちゃんの内なる闘志と逞しさで惚れ直すことになった。


 マドンナ駒井さん、それに闘志を燃やす奈々ちゃん…わたしはこの二人に何があったかの方が気になった。


 さて、またどうなることか?