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第六話 お隣さんと休日のひと時

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 ゴールデンウィークはあっという間に過ぎていった。


 わたしも現役の高校生、さぞや充実した連休を過ごしただろうと思うだろう。


 彼氏もいない、鈍くさい、その上少女漫画大好きの妄想女…そんなわたしの連休はほぼ店の手伝いと部活動。関わった異性と言えば当然部活の人間、日向君…そしてお隣さんの蒼くらいだった。


 用事がなければ家に籠り少女漫画、乙女ゲーム三昧…たまに違うジャンルが読みたくなりホラー小説なんか読んでしまったら眠れなくなったし…


 わたしは一体何をしてるんだろう??


「はぁ…乙女ゲーの主人公みたいな生活したいなぁ…」


 怖い話を読んで眠れなくなったせいで、夜通し乙女ゲーをやり込んで現実逃避していた。


 今ようやくハッピーエンド。幸せそうな主人公の女の子とイケメンなお相手が仲睦まじく描かれている画面を見るとなんだか自分の現状が虚しく思えて仕方がない。


 連休最終日だっていうのに…


「普通にしててこんなイケメンばっか集まって来るなんて…やっぱ現実にはありえないよねぇ…はぁ…」


 ゲームのし過ぎで温まりすぎたスマホを投げ出すと、鏡の前に立ってみた。


 中途半端な長さの髪…肌は白い方だと思うけど…外に出なさ過ぎて不健康な色白に見える。それに胸もなければ身長もない。鏡に映るのはそんな冴えない自分の姿。


「せめて奈々ちゃんくらい可愛かったらなぁ…駒井さんも凄く可愛かったし…」


 数日前店にやって来た学年のマドンナ駒井さんを思い出し、蒼と楽しそうに話していたこともついでに思い出してしまった。


 蒼も黙ってればイケメンだし…やっぱり駒井さんと並んでると自然って言うか、違和感がないよね。絵に描いたような美男美女カップルって感じで。


 わたしは蒼の近くに居す過ぎて、尚且つ十三年間何かと口煩く世話を焼かれていたからか…蒼が普通に見えて、『雛森君て格好良いよね!!』なんて言葉を聞いてもピンと来なくなっているけど…。


「…なんか納得いかないのはなんでだろう?」


 わたしにとって蒼はやっぱり無表情で世話焼きで頭のお堅いお隣さんの幼馴染みだ。漫画だとこれで恋が始まったりするらしいけどそんな兆候は今まで全くない。


「えっと…確か…」


 ゴソゴソ…


 机の引き出しを開けると、茶封筒を取り出した…


 これは入学式の時蒼の母、紫さんが記念にと撮ってくれた写真が数枚入っている。せっかくだからと焼き増ししてくれたのを貰ってそのままにしていたことを思い出したのだ。


 中から写真を取り出して見ると…校門の前で気まずそうな笑顔を浮かべるわたしと、相変わらず無表情の蒼の姿。二人の間には微妙な距離が取られている。


 恥ずかしかったな…あの時。蒼はやはり入学当時から目立っていたらしく女子生徒達が騒いでいたから、わたしと並んで写真を撮っている間の周りからの視線が怖かったな。


「…まぁ、確かにこうして見るとやっぱり…」


 春風に揺れるサラサラの黒髪に涼し気な瞳、スラリと伸びた手足…地味な紺色のブレザーの制服を着ていても普通に様になっていた。


 これで中身が王子様みたいだったら…わたしだってときめきっぱなしだったに違いない。顔はやっぱり好みだった。納得いかないけどイケメン好きとしては仕方がない。


「けどなぁ~!!中身がああじゃ駄目だよ!やっぱり!!」


 写真を放り出しベットへ寝転ぶ…静かな朝だ。


 パンパンッ!!


 目を閉じ静寂の中に身を任せていると、お隣さんから何か叩く音がした。


 隣…わたしの部屋は蒼の部屋の隣でベランダが向き合っている形になっている。


 なんて無駄な少女漫画設定なんだろう…


 どうせ布団でも干して叩いてるんだ…今日は天気も良いし、ぽかぽか陽気だし…


 パンパン…バサバサ…


 一体どれだけ布団を綺麗にすれば気が済むの、あいつ…これだから典型的なA型は…


 コンコン…


 また目を閉じ眠りにつこうとしていると…窓を叩く音が…


 カーテン越しに見える背の高い影…こ、これは…


 いいや、居ないふりしよ。眠いし…


 寝返りを打ち布団を被ると再び目を閉じた。


 カララ…


 え?窓開いた?


 春の暖かな空気が部屋の中へ入り込んで来た…


 そして、静かな足音が近づいて…


「…おい、起きてるんだろう?」


「か、勝手に入って来ないでよ!!」


 ガバッと起き上がると、バクバクした胸の高鳴り…昨日読んだ怖い話のせいでこの迫りくる足音に恐怖を感じたからだ。決して蒼にドキドキしたわけではない。


「…『5分で背筋が凍る百物語』?灯、お前…」


「勝手に乙女の物を見るのもやめて!本当デリカシー無いんだから!」


 足元に転がる本を手に蒼が呆れたようにため息を吐く…


 全く…勝手に部屋に入って来るわ、部屋の本勝手に読むわ…いくら気心知れた幼馴染みだからって自由すぎる!!


 まぁ…わたしも同じような事するけど。でも!年頃のしかも同い年の女の子の部屋に入って私物を観察するなて!!信じられない!!


「…勝手に入ったことは謝る。」


「分かればいい…」


「けどな、窓の鍵はちゃんと掛けろ。俺がたまたま布団を干してる時に気が付いたから良かったものを…灯は不用心すぎるんだよ。」


「え?鍵開いてた?…いや、開いてたから入って来たのか…じゃあ夜中ずっと…」


「寝る前にちゃんと鍵の確認しろって言っただろ?何度言ったらちゃんとしてくれるんだ…はぁ…」


「す、すみません…」


「お前絶対分かってないだろ…仕方ない…今日から俺がするからお前もうしなくていいよ。その方が安心出来るし…」


「な、なんでそうなるの!?」


「言っても絶対忘れるだろ…何かあってからじゃ遅いんだ。」


「別に泥棒入るほどお金持ちじゃないよ?花森家。蒼の方がよっぽど気を付けた方が良いって。」


「俺はお前みたいにぽやぽやしてないから大丈夫だ。」


「ぽ、ぽやぽやって…何か可愛い響き…」


「喜ぶな…俺は真面目に言ってるんだ。灯、ちょっとそこに座れ…お前にはやっぱり一度ちゃんと話した方が良い…」


 と、ベットに腰を下すと、蒼は隣に座るよう促した。


 げっ…またお説教だ。このパターン…絶対嫌だ!!


「あ、い、いっけない!!そろそろドラマの再放送が!!見ないと!!」


「おい…」


「桜庭刑事がわたしを呼んでるから!!」


 わたしは最近始まった刑事ドラマ『桜庭刑事物語』にはまっていた。主演の桜庭刑事がまた渋いダンディー俳優で、その弟役には人気アイドルが出ている眩しい豪華俳優陣ドラマだから。


「…そう言えばお前先週見逃して泣いてたな…」


「そうだよ!蒼の説明が長々しいせいで!!どうしてくれるの!」


「お前の理解力の問題だろ…俺が教えなかったら朝までうんうん唸ってたはずだ。」


「そ、そうだけど…ってだから!またわたしから桜庭さんを奪うの!?やめてよね!!」


 わたしの気迫に押されてか、呆れてか…蒼は結局折れて仕方がないので一緒に観ることにしたらしい。


 何だかんだでわたしが騒げば折れる…中々物分りの良い幼馴染み蒼。


「静かだな…おばさんはどうした?」


「今日は伊吹さんとデート。だから店も休みなんだ。」


「そうか…あれからどうなんだ?お前何も言ってこないけど…」


「ん?伊吹さん?何もないよ?いつも通り平和。」


「…みたいだな。心配して損した…」


「まだ心配してたの?本当蒼はわたしの事大好きなんだね~…心配性だなぁ!」


 って…何言ってるのわたし!?ノリとは言え『好き』って!!いくら蒼でも動揺する…


「そうだな…心配で目が離せない。」


「え?そ、それってどういう…」


 今好きってからかって『そうだな』って…


 な、何この展開!?蒼本当にわたしのこと…


「何って…その通りの意味だけど。」


 その通りって…告白…にしてはいつもと変わらず無表情なんだけど…


 いつも通りの様子の蒼にじっと見つめられ、わたしも思わず目が反らせなくなった。


 な、何!?この胸の高鳴り!?なんで顔が熱くなってくるの!?蒼なのに!?


「心配性だってお前言っただろ?」


「そ、そっち!?」


「他に何の意味がある?」


「…べ、別に…」


 何この無駄な胸の高鳴り…


 そうだよね…蒼に限ってそんなことあるはずないじゃん。わたしになんて。


 考えれば分かることじゃん、わたし!何を期待してそんな顔まで熱くなってるんだろう?


「どうした?顔赤いぞ?」


 わたしの心中など知る由もなく、蒼は黙って俯いているわたしを覗き込むと少し心配そうに額に手を当てた。


 本当こいつは…


「ちょっと熱いな…熱測ってみろ。」


「だ、大丈夫だって…」


「大丈夫じゃない。お前は体調崩しやすいんだから…やっぱり再婚の事で無理してたんじゃないのか?」


「…違うって…そんなんじゃないから…ちょっと一時的なものだって!本当心配し過ぎ!!」


「……」


「だから本当大丈夫なの!!」


 まだ心配そうにわたしを見ている蒼にそう言い切ると、テレビのチャンネルを付けた。


 こんなやり取りしてたらまた見逃しちゃう!!


 まだ少しだけドキドキする胸にわたしは戸惑っていた。なんで変な事考えちゃったんだろう?


 わたしの馬鹿!!そこまで夢見がちでどうするの!!