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9話

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―村瀬side―


村瀬むらせ先生!  また澤井さわいさんと斎藤さいとうさんが授業にいなかったんですけど!  どうなってるんですか!」



「すみませんね…。言っておきますよ」



「ほんっとに、村瀬先生の責任でもあるんですからね!」



「そうっすか」



「そうっすかって…。村瀬先生がそんな感じだから、2人ともサボるんじゃないんですか?!」



「すみませんね~」



顔を真っ赤にして怒る年増の英語教師に、適当な返事をして数学準備室へ逃げ込む。 



村瀬優也むらせゆうや 27歳。

数学教師になって、約4年。



最近の悩みは、俺のクラスの澤井と斎藤という生徒。



入学して日が浅いのに、毎日何かしらの授業をサボる2人は、教師の間で問題児扱い。 


特に入学式に遅刻した澤井は、学年指導にも目を付けられていた。



2人のせいで、いろんな教師にチクチク責められる俺は、常にストレスが溜まっている。 




ストレスでハゲたらどうしてくれるんだ。




副担任の涼しそうな頭が脳裏に浮かび、ゾッとする。




「次あの2人がサボったら、成績に1を付けますからね!」




1って…。



数学準備室まで俺に付いてきた英語教師は、捨てゼリフを残して怒りを表すようにドシドシと足音を立てながら去って行った。





澤井か…。





タバコに火を付け、ストレスを吹き飛ばすように、思いっきり煙を吐き出す。 




澤井との出会いは、少し変わっていた―――。




***





「入学おめでとう。今日から―――」




教師になって4年目。

俺は、初めてクラスを受け持つことになった。



しかし、初っ端からトラブル発生。




教室の真ん中に、ポツンと空いた1つの席。

澤井美羽さわいみうだけが、まだきていない。


入学式に遅刻する生徒なんて、見たことねえ。


簡単な挨拶と出席確認を済ませ、残りの作業を副担任に任せて澤井の家に電話を掛ける。 


しかし、出る気配が全くない。




ったく、初日から遅刻とか、どんな悪ガキだ?




県内でも学力が低い子が集まる高校だが、初日に遅刻なんて前代未聞だ。




まさか、時計が読めないほど頭が悪いわけ…ねえよなあ…。




刻一刻と迫る、開式の時間。


一応、校門で待ってみる。


辺りはシーンと静まり返っていて、誰もいない。

この時間だと、参列者も体育館に入っている。




チラッと腕時計を見ると、開式まであと5分。




もうこないだろう…と思い

体を体育館の方へ向けたとき―――



「っわあ!」



背後から聞こえる、素っ頓狂すっとんきょうな声。



驚いて振り向くと、女子生徒が俺に向かって飛んできた。



はっ?!



考えるよりも先に、体が動く。

とっさに腕を広げ、全身で女子生徒を受けとめる。



女子生徒は、俺の胸の中にすっぽり収まった。




小せえ…。




真新しい制服に身を包み、幼さがまだ少し残っている。




この女子生徒が、澤井か?




「危ねえ…」



とりあえず、転ばずに済んで良かった。

あの勢いで転んでいたら、間違いなく大怪我をしていただろう。



「大丈夫か?」



女子生徒に声を掛けると

状況を理解していないのか、ゆっくりと顔を上げ、ボーッと俺を見つめる。 



この状況、誰かに見られたらマズイな…。




生徒を抱き締めている教師―――




今この状況を見た人に、勘違いされたら面倒だ。


いや、勘違いされるだけならまだ良い。

このことがニュースで流れたりしたら……


最悪の事態を想像し、ゾッとする。

ひとまず女子生徒に状況を理解させようと思い



「いつまでこうしてんだ?」


と声を掛ける。



優しい言葉を掛けられないのか…と我ながら呆れるが

俺の問い掛けに、女子生徒はようやく状況を理解したようだ。

そして、慌てて俺の腕から抜け出した。




見る見るうちに赤く染まる頬。

初々しい反応に、思わず笑ってしまう。



こんな反応をする女は、久しぶりだ。



27歳という年齢的にも、男慣れした女ばかりを見ているせいか

数年ぶりに見るうぶな反応に、不覚にも男心をグッと掴まれてしまう。



誤魔化すように、落ちていた鞄を拾って手渡し、念のため名前を確認した。



「あ、……澤井美羽…です」



チラリと自然な上目遣いで俺を見ながら、恥ずかしそうに名前を言う澤井。




「澤井?  …何だ、俺のクラスかよ」



俺のクラスかよって…

そんなこと知ってたのに、何をいまさら…。



俺は、自分の心臓が高鳴っていることに、動揺していた。



式の最中、隣に座る斎藤とずっと話している澤井。

不真面目な生徒なのか、今どきの子なのか…。

どちらにしても、手の掛かる生徒には違いない。


周りの先生に気付かれないよう、そっと溜め息を吐いた。




―――式も終わり、教室まで移動する最中

遅刻をした澤井を噂する声がチラホラ聞こえていた。



「今日遅刻したあの子、まじ可愛いくね?」



「あー、遅れて体育館に入ってきた子だろ?  あれはやべえ」



「彼氏とかいるのかな?」



「いやあ、いないだろ。つーか、いないでほしい」



あちこちから聞こえる会話。



遅刻したことで、注目を集めた澤井は、その容姿も相まってすっかり有名人となっているようだ。



そんな声に、なぜかイラつく俺。

いや、バカじゃねえの…。


と、思うが…

このあとも、俺の心は澤井に揺さぶられ続けた。





***




そんな澤井との出会いを思い出しながら、タバコを吸っていると



―――コン、コン


控え目にドアを叩く音が聞こえて


「チッ、…はい?  どうぞ」


慌ててタバコを揉み消す。


一応、校内は禁煙だ。


いまさら消したところで、匂いでバレるだろうが…その辺のことはあまり気にしない。 

バレたらそのとき考えればいい。



「し、失礼しまーす…」


遠慮気味にドアを開けて入ってきたのは


「何だ、澤井か」


澤井だった。



室内のタバコの匂いに気付いた澤井は、慌てた様子ですぐにドアを閉めている。


先日交わした約束を、しっかり守る気でいる。

そんな澤井に、思わず笑みがこぼれた。



「あのー…」



おずおずと声を掛けてくる澤井は、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。



「何だ?」



「この前伝え忘れたんですけど…」



「ああ。何だ」



「バスの席、私、窓側にしてください」



「…は?」



「遠足の、バスの席です」




そういえば、こいつ俺の隣の席になったんだな。




どうやら、そのことでここにきたらしい。




「ああ、別に構わねえが…。つーか、元々その予定だったけど」



「え?  そうだったんですか?  何だ、良かったー」




パアッと明るい表情になる澤井。

一言で言えば、可愛い。




「私、すぐ酔っちゃうから、窓側が良かったんです!」



「そうかよ」



教師のくせに…

つーか、こんなガキに心を揺さぶられるとか、バカじゃねえの。

恋愛を覚えたばかりの中坊でもねえのに…。




「あ、あと…」



まだ話があるらしい澤井は、さっきよりも遠慮気味に話し掛けてくる。




「何だ?」



「その…、シトラスの香水」



「あ?」



「すっごく好きな香りなんですけど…、できればずっと嗅いでたいんですけど…その、遠足の日だけは…えっと…」



失礼な言い方を避けようとしているのか、やたら回りくどい言い方をしている。


そんな澤井に対し、愛おしいという感情が湧き上がる。


澤井が生徒じゃなかったら、俺は今すぐにでも遊びにさそうだろう。




「ああ、匂いで酔うのか?」



「はい…。なので…遠足の日だけは…」



「わかった。付けねえよ」



「本当ですか?  良かったあ…。それじゃ、失礼します」



俺の言葉に、ホッとした顔をしている。



言いたいことを全て吐き出したのか

軽やかな足取りで立ち去る澤井を、思わず引き止めてしまいそうになった。



俺が、教師じゃなかったらな…。