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10話

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5月末の遠足で、バスの席が村瀬むらせ先生の隣になった。

ずっとワクワクしていて、遠足の日が待ち遠しい。


カレンダーにバツを書いて、カウントダウンしてしまうほどだった。





***




「で?  村瀬とはどうなのよ」



「うん、最近は前ほど緊張しないで話してるよ」



「たしかに、最近よく話してるね」





今日もいつも通り、さきと一緒に授業をサボって空き教室で時間を潰している。



咲は、学校にくる前に買ったパンを食べていて

私は、数学の宿題を解こうとしている。


だけど、見たこともない数式が並んでいて、自力で解けそうにないから、ほぼ諦めている。



また、村瀬先生にバカって言われちゃうかな…。




「遠足までに、少しは緊張を解いておかないと、当日死んじゃいそうだから…」




気が付けば、5月も半分過ぎていて、遠足まで残り数日だった。




「大袈裟。死ぬわけないじゃん」



「大袈裟じゃないもん。ほんとーに、すっごくドキドキしちゃうんだよ」



「どのくらいよ?」



「え?  うーん…心臓が爆発しそうなくらい?」



「いや、疑問系で返されても知らんがな」



「でもね、それも何か心地いいっていうか…嫌なドキドキじゃないから、気分がいいっていうか…」



「いいなーっ、美羽、幸せじゃーんっ」



「し、幸せ…かな」



「私も、そんな恋したいな~」




羨ましがる咲だけど、最近彼氏ができたはず…。



「咲だって、彼氏いるんでしょ?」



「いるけど、別れるかな」



「えーっ、またー?」



「今度は私が惚れた人に、私から告白して付き合いたいなって思ってる。美羽みうを見てると、私も片想いしてみたくなった」



贅沢なことを言い始める咲は、男に困った経験なんてない。

恋愛経験ゼロの私からしたら、とても羨ましい。



だけど、咲はいつも相手から告白されて付き合っているから

自分から誰かを好きになったり、自分から告白した経験はゼロらしい。




「美羽って、堂島どうじまにどうやって告白したの?」



「えっ?!  そんなこと、もう忘れちゃったよ…」



「嘘つけ。今後の参考にするから、教えろ」



「えーっ…えっとね…」




バレンタインの日、放課後の誰もいなくなった教室で、手作りチョコを渡して…




「堂島くんのこと、好き」



って、言ったような気がする。




「きゃーっ!!   超ストレートッ!!」



「もーやだっ、思い出して恥ずかしくなってきたーっ」



「で、何て言われて振られたんだっけ?」



「バカは論外…って…もーっ、思い出させないで」




好きって言ったら、間髪を入れず振られたんだよね…。

少しくらい、どうしようか考えてくれても良かったと思うんだけどなー。




そのまま、思い出話に花を咲かせた。

お昼になると、レミちゃんも合流した。



「私、ちょっと村瀬先生のところ行ってくる」




お母さんの手作り弁当を食べ終わったあと、ノートと教科書を持って2人に声を掛ける。




「なーに?  堂島の話とかしてたから、村瀬に会いたくなっちゃったの?」



「ち、違うよっ!  宿題がわからないから、聞いてくるの」



「いつからそんな真面目ちゃんになったんですかー?」



「次の授業、私から答え合わせなんだもん。この前みたいに答えられなかったら、恥ずかしいからっ!」



「はいはい、わかったよ。行ってきな」



聞くほどのことではないし、答えられなくても恥ずかしいとは思わないけど。

少しでも村瀬先生との時間を作りたくて、数学準備室へ急いだ。



数学準備室の前に着くと、今日もタバコの匂いがする。



「良かった、いる…」



その匂いは、村瀬先生が部屋にいることを表している。

いなかったらどうしよう…と思っていたから、安心した。




―――コンコン



軽くノックすると



「…はい」



低い声で、返事をされる。



きっと、慌ててタバコを消してるはず。

いっぷくの時間を邪魔されて、不機嫌かな…?



最近よく数学準備室に行くから、なんとなく村瀬先生の行動がわかってきた。





「失礼しま…って、あれ?」



「やっぱり澤井さわいか」




いつもは、慌てて消すはずなのに

今日は、気にせずタバコを吸っている。



「私って、わかってたんですか?」



タバコが消されてないのを見て、慌ててドアを閉める。

村瀬先生は、クククッと楽しそうに笑う。



「まあな。なんとなくお前だと思った」



「何でですか?」



「だから、なんとなくって言っただろ」



「なんとなくって…」




超能力者でもあるまいし、なんとなくわかるって、変なの…。




「で?  今日は、何の用だ?」



‘‘今日は”を強調して言う村瀬先生に、最近行きすぎたかなと恥ずかしくなる。 



「あ、…えっと、この前出された数学の宿題が、わからなくて…教えてもらおうかなーって…あ、でも迷惑なら帰りますっ」



自分の行動が急に恥ずかしくなり、持っていたノートと教科書を、思わずギュッと抱きしめた。



「何だ、珍しいな」



「だっ、だって、この前みたいに答えられないのは、恥ずかしいし…」



本当は、村瀬先生に会いたいだけなんだけど。

さすがに伝える勇気はない。




宿題だから自力でやらないと、意味がない…とか言われるかな?




不安になって、やっぱりいいですと断ろうとしたとき



「こっちこいよ」



村瀬先生が、手招きして私を呼ぶ。



「え…?」



「教えてやるから、こっちこい。そこにいたら教えられない」



その言葉に嬉しくなり、走って村瀬先生のところまで向かうと



「そんな急がなくても、ちゃんと教えてやるよ」



と、苦笑いされてしまった。



「ここなんですけど、こんな数式、見たことないからわかりません」



「見たことないって、お前なあ…これ、中2で習うぞ」



「だって、中学の数学、ほとんど出てなかったし…」



「そんなんで、よく高校受かったな」



「勉強しなくても受かったから、ちょっとは頭良いんですよ?」



「そうかよ。で、ここだけど、これは―――」




村瀬先生は、私の言葉にかなり呆れていた。

でもわからないところを丁寧に教えてくれて、すぐに理解できた。




「わっ、できたーっ!」



「良かったな」



「ありがとうございます!」



「澤井は理解力があるから、ちゃんと勉強すれば伸びるぞ」



「違いますよ、村瀬先生の教え方が上手いんです!」




私がそう言うと、少し嬉しそうにした村瀬先生は、慣れた手つきでタバコに火を付ける。 



「ヘビースモーカー?」



「澤井のせいで、ストレス溜まるからな」



「えっ」



「授業出てくれ。英語の先生に毎日怒られてハゲそうだ」



「怒られてるんですか?」



「ああ、毎日ストーカーのように俺を追い回してキレてる」



「へー、そうなんですか」



「へーって…ずいぶんと他人事だな」



「うーん、私が怒られてるわけじゃないし…」



「じゃあ、直接本人に言えって言おうか」



「ええっ、やめてくださいよっ!」



「冗談。でも、授業に出ねえとまじで成績に1がついて留年だぞ。気を付けろよ」



「はぁーい」




先生と生徒の、他愛もない会話。

私が無理矢理作ってる、2人きりの時間。



だけど、私にとってはとても貴重な時間。



村瀬先生との1つ1つの会話や、いつの間にか経ってしまう1分1秒が、とても幸せな記憶になる。




村瀬先生の彼女になりたい―――




なんて、そんな高望みはしないから

この幸せな時間が、この心地良い関係が、ずっとずっと続いてほしいと思った。