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1話

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【prologue.】




先生に恋するなんて、馬鹿げてると思う。



普通に高校生らしく、同級生の男の子を好きになった方が何倍も幸せだと思う。




なのに、どうしてもこの気持ちは止められなくて



毎日会うたび会うたび、私の気持ちは増して行く。






私、先生に恋を―――。

















「あー、村瀬先生だ!  今日もかっこいー」



「先生~、こっち向いてー!」



「先生~!  付き合って~!」








そこらから聞こえる、黄色い声。


それは、1人の教師へと向けたもので

その教師は、そんな声を気にすることもなく

校門の前に立っている。





それが、この高校の日常風景。




村瀬むらせ優也ゆうや

27歳、独身。




芸術品のように整った端正な顔立ちと、冷たそうな雰囲気。


教師のクセに、少しスーツを着崩し緩くネクタイを締めている村瀬先生には、大人の色気があり

ちょっと背伸びしたい年頃の私たち高校生には大人気だった。



教室の窓から、校門に立つ村瀬先生を見ようと

女子生徒が身を乗り出しているが

それも、この学校の日常風景で

今更それを「危ないからやめろ」と言う先生はいない。




「美羽、また見てんの?  村瀬のこと」



「うん。だってかっこいいもん」




そんな私も、村瀬先生の虜とりこになっていて

毎日早く学校へきて、教室の窓から村瀬先生を見ている。




澤井さわい美羽みう

16歳、高校1年生。



村瀬先生に惚れたのは、入学式の日だった。





***





「やっばあ…!  遅刻遅刻!!  入学式に遅刻とかありえないよーっ」




綺麗な桜並木を見ているヒマもなく

春だというのに額には薄っすら汗をかいていて

そんな自分が情けなくなる。



まだ履き慣れていないローファーのせいで

足が痛くなってきていて


慣れてない朝の電車ですでにヘトヘトなのに

学校までの道のりを猛ダッシュしていて…


高校生活初日にして、心が折れそうだ。




調子に乗って短くしたスカートは

走るとパンツが見えそうでハラハラしてしまうが

今はそんなことを気にしてるヒマはなく


ちょっと大人ぶって買った、少し高めのデパートコスメは

寝坊したせいで使えなくてガッカリだが

今はそんなことを気にしてる余裕もなく


パンツが見えようと、酷い顔してようと

兎に角、必死に走り続ける。




ようやく見えてきた高校。



あと少し…!!



と、自分に言い聞かせ

走り続けてパンパンになった足を動かし続ける。




辺りには新入生の姿も、式に参列する保護者の姿もなくて


9時30分入学式だっていうのに

時刻はもう9時25分。


そもそも、クラス発表やHRがあるから

8時45分までには教室ヘ入らないといけなかったのに

すでに30分以上も遅刻していた。




着いた…!!




やっと校門に到着し、ふう…と息を整えながら速度を緩めた瞬間




「っわあ!!!」




疲労と慣れないローファーのせいで足がもつれ

フワッと体が宙に浮き、ゆっくりと視界が地面に近付く…




運動神経は良い方だし、体力もある方だが

さすがに慣れないローファーで慣れない道のりを10分ほど走り続けていれば、疲れる。


こうなってしまうと、もうあとは地面にぶつかるのを待つしかない。


持っていた新しいバッグが手からすり抜け飛んで行くのが

スローモーションのように見え


ああ、ちょっと高かったのに…


なんて落ちて行くバッグを見送り

ギュッと目を瞑つぶって、痛みを覚悟したが…




「…あ、あれ?」




痛みも衝撃も、いつまでもこない。




だけどその代わりに―――




「危ねえ…」




シトラスの良い香りが鼻をかすめ

全身に人の温もりを感じた。




「大丈夫か?」



頭の上から聞こえる、低くて心地良い声。



「…え」



声に釣られるようにゆっくりと顔を上げれば

そこには見たこともないくらい綺麗な顔があった。



この人に受け止められたおかげで、転ばずに済んだらしい…。



綺麗な顔…。

こんなに顔が整ってる男の人、見たことない。



思わず見惚れてしまい、ボーッとその人を見つめていると



「いつまでこうしてんだ?」



その人に呆れながら言われ

ハッと慌ててその腕から逃げる。




事故だとしても、不可抗力だとしても

男の人に抱き締められたことなんてない私は

この人に聞こえてしまうんじゃないかと思うほど

心臓がうるさくドキドキと音を立てているが


私の目の前にいる、怖いくらいに顔が整ったこの人は

顔色ひとつ変えることなく、平然としている。




この人、一体誰?




「ほら、鞄」



見事にすっ飛んで行ったバッグを拾ってくれたその人は



「名前は?」



チラリと私の顔を見て問い掛けてくる。



「な、名前…?」



「新入生だろ?  クラス教えるから、名前」



「あ…、澤井 美羽…です」



「澤井?  …何だ、俺のクラスかよ」



「えっ」




俺のクラスって……

先生ってこと?


こんなかっこいい人が、先生?


しかも…私の、担任の先生なの?!




「初日から遅刻か。あんまり、俺に迷惑かけんなよ?」



「…え…は、はい」



「んじゃ、行くか。もう体育館に移動してるから教室へはあとだ。鞄は俺が預かっておく」



「はあ…」




状況についていけない私を置いて、スタスタと歩いて行く先生を慌てて追うが

後ろを歩いていると、シトラスの香りがして、ドキドキしてしまう。



決して走ったからとか

高校初日だからとかではないドキドキ…



このドキドキは、一体…?



先生が静かに開けた扉からそっと体育館へ入ると、もう生徒たちは入場を終え席に座っていて、式が始まるところだった。


今日お母さんが入学式にきていなくて良かった…と、胸を撫で下ろす。




「澤井はあそこの空いてる席」


と先生が指差す方へ視線を送ると

空いてる席の隣には、見覚えのある後ろ姿。



ラッキー!



心の中でガッツポーズをして、姿勢を低くして席へ向かう。



「…ふう」



席に着き、疲れを吐き出すように息を吐くと



「ちょっと美羽、初日から遅刻とか気合い入りすぎ!」



隣の席にいる、親友のさき

小声で話し掛けてきた。





「ごめんごめん、寝坊しちゃって」



「ありえない。私なんて緊張してオールだよ」



「私も。5時くらいまで寝れなくて…気付いたら寝落ちしてて寝坊からの遅刻」



「はあ…。相変わらずね」



「まあね。遅刻は私の代名詞ですから!」



「…はあ。あんた、高校でそれ続けたら留年よ」



「で、ですよね。気を付ける」




咲とは小中と同じ学校で


咲の苗字が斎藤さいとうということもあり

出席番号が近く、何かと縁がある。


こうしてクラスが同じになることも、これで4回目だった。



私と咲は中学の頃、少しヤンチャしていて…


といっても、喧嘩したり悪さしたりなんかはしてないけど、学校へ行っても殆ど授業には出ずサボッたり、無断欠席したりという感じだった。



だから、2人でこの高校に受かったのは奇跡に近い。


まあ…、県内で下から数えて3、4番目くらいの学力の高校だから落ちるはずなかったけどね。



「てか、担任見た?  ちょーイケメン!」



そんなことを考えていると、咲が興奮気味に話し掛けてくる。



担任…

って、さっきのかっこいい人だよね?



「見た見た。見たというより、助けられたの」



「はあ?」



「さっき転びそうになって、受け止めてくれたの」



「なにそれっ!  羨ましいっ!」



「すっごい良い香りだった…」




あ…

思い出したら、またドキドキしちゃう…。


かっこよかったな~。




…って、何ドキドキしてるの?!




「あれ~?  美羽ちゃん、顔真っ赤」



私の顔を覗き込みながらそう言う咲に



「へっ?!  そ、そんなことないよっ!」



慌てて否定する。



だけど…



「もしかして~、恋しちゃったなんて言わないよね?」



「えっ、恋?!  ないない、ありえない!」



「そ~?  なんか、恋してますって顔してるけど?」




恋してますって…

このドキドキは、恋してるからなの?


初めて会ったよく知らない人に恋?

しかも相手は先生…。




チラっと咲を見ると、ニヤリと笑われる。



「な、何よ…その顔」



「ふーん。美羽ちゃん、恋しちゃったんだ~」



「だから、違うってば!」



「恋してますーっ!  先生を想うとドキドキしちゃいますーっ!  って顔してるけど?」



「えっ…そ、そんな顔してないよ」



「私には、全てお見通しよ!!」




得意気に言う咲に、私のドキドキは更に増して行く。


まさか、先生に恋なんて…



「認めた方がラクですよ?」



「認めるって…そんな…」




私…、先生に恋しちゃったの…?