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3話 大塚アイナの恋愛講座

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 放課後、私は渋谷くんを連れて保健室へと歩いていた。


「恋の協力者って、大塚だろ?」


「うん」


「俺がいて、大丈夫なのか……?」


「う~ん」


 足を止めて、渋谷くんの金髪をちらりと見上げる。


(私がいれば大丈夫……と思いたいけど)


 渋谷くんみたいなタイプは、アイナが怖がるかもしれない。


 不安になってきたけど、もう保健室の前まで着いてしまった。

 私はひとつ息を吐いて、戸に手をかける。


「アイナ、いるー?」


「カオリちゃん――あれ?」


「やっほ。ちょっと今日はお客さんいるから」


「……おす」


「渋谷くん……?」


 アイナは大きな目を丸くして、そっと視線をそらした。


(そりゃ、怖いよね。この髪だし)


「アイナ、大丈夫だよ。渋谷くんは“なんちゃって不良”だから」


「おい」


 渋谷くんの不満そうな声が聞こえたけど、今は無視。

 すると、アイナが見かねて声をかけてきた。


「あの、メールで事情は聞いてる、よ。大変、だね」


「おう」


「ツラいの、分かるから……私も、出来る限り、協力する」


「さんきゅ」


 途切れがちな声に、渋谷くんの愛想のない返事が続く。


(っていうか、渋谷くん態度悪すぎ……)


 私はジロリと渋谷くんを睨む。


「アイナ、むかついたら手伝わなくていいんだよ?」


「はぁ!? 別に俺は――」


「だ、大丈夫だよ!」


 アイナがかばうように、声を出す。


「いいの、私がはっきり喋らないのが悪いんだよ。ごめん」


「う……」


 アイナが悲しげに目を伏せると、罪悪感が私を襲った。


 渋谷くんもこたえたみたいで、苦虫を噛み潰した顔をする。


「……悪い。手伝ってくれるか?」


「うん。カオリちゃんが頼ってくれるなんて珍しいから、頑張るよ」


 アイナが健気に笑う。


「渋谷くん?」


「……悪かったよ。ちゃんと接するようにする」


「うん、よろしくね。渋谷くん」




 その後、私は2人に小南先生を説得するための作戦を伝えた。


「恋の応援か……本当にうまくいくのかよ」


「小南先生の様子を見れば、納得できると思うよ」


 話を締めくくると、ちょうど保健室の戸が開いた。

 気取った男性の声も聞こえてくる。


「――それで、うまい店を偶然にも! 見つけたんですよ!」


「はぁ……」


 何か必死な様子の小南先生と、神田先生だ。


「小南ってあんな奴だったのか」


 渋谷くんは唖然として、2人の先生を見つめる。


「すまん。疑ってたけど、さっきの作戦で頼むわ」


「はいはい。じゃ、まず渋谷くんから話してきて」


 私の考えた“説得作戦”は始まった。


「小南先生!」


「――なんだその金髪」


「事情があるんスよ」


 金髪に驚いた小南先生に、渋谷くんが追いすがる。


「それより、お願いしたいことがあるんです」


「いや、ちょっと今は……」


 あしらおうとした小南先生を、渋谷くんが捕まえる。

 その間に、私は神田先生に向かって手招きをした。


「神田先生、こっちこっち」


「上野さん……あれ、何の話なの?」


「小南先生に、サッカー部のコーチになってほしいみたいです」


「ふぅん」


「それより、今のうちに出ちゃった方がいいですよ」


「ここの鍵は、私たちが返しておきます」


 神田先生は少し考える素振りを見せた。

 そして、大きなため息を吐くと、ポケットから鍵を取り出す。


「ごめんね、先生たちの事情に巻き込んじゃって」


「いえいえ」


(こっちこそ、巻き込んじゃってごめんなさい!!)


 心の中で謝って、神田先生が出ていくのを見送る。


(渋谷くんの方は、ちょっと苦戦してるかな)


 小南先生は苛立った様子で、渋谷くんから顔を背けていた。


「とにかく、コーチの話はお断り!」


「なんで駄目なんですか! サッカー好きなんでしょ! 上手いんでしょ!」


「俺は……」


 小南先生が一瞬、言葉に詰まる。


「俺はモテたいんだよ! 汗臭くサッカーなんてやってられるか!」




(え、えぇ……?)


「お前に忠告しておいてやる。サッカーでモテるのは中学生までだ」


「……は?」


「大学に入るまでに彼女を作らないと、もう出会いはないんだ!」


「知らねぇよ、そんなこと!」


「バカかお前! 今は彼女なんていらないなんて言えるけどな!」


 保健室に小南先生の叫びが響き渡る。


「まぁいい。とにかく、コーチなんてやってられないの!」


「だからなんで!」


「わかるだろ! デートする時間がなくなるだろうが!」


(今のままでも誘えてないから、関係ないと思うけど)


「正直すぎて、何も言えねぇ……」


 渋谷くんは悔しそうに眉をひそめている。


(そりゃ、あんな理由で断られたらやるせないよね)


 私は少し同情しつつ、アイコンタクトを送った。

 それを受けて、アイナが小南先生に駆け寄っていく。


「ね、小南先生」


「ん?」


「私たちが先生の恋を応援してあげますから、コーチの件、考えて頂けませんか?」


 アイナの言葉に、小南先生はきょとんとした顔をする。

 そして、直ぐにキリっと表情を作り直すと、鼻で笑った。


「子どもが大人の恋にアドバイスなんて……」


「私、神田先生の好きな男性のタイプ、知ってますよ?」


「…………」


 アイナが告げると、小南先生はピタリと硬直した。


「好きなデートコースも、聞いたことあるんだけどなぁ」


 続けて、アイナは笑顔で語り掛ける。

 すると、小南先生はキメ顔のままこちらを振り返った。


「――詳しく聞こうじゃないか」


その目はギラギラと輝いていた。




「まず、神田先生は今カレシいないみたいです」


「――っ!」


 ガタっ、と椅子が揺れる音がする。

 小南先生が立ち上がってガッツポーズをしていた。


「先生、座ってください」


「ごめん。ずっと気になってたから、つい取り乱した」


「カレシいるか、聞かなかったんですか?」


「聞いたんだけど相手にしてもらえなくて……」


 しゅん、と小南先生が背中を丸める。


「小南先生、今までどんな風にアプローチしてきたんですか?」


「お、聞いちゃう?」


 アイナが訊ねると、小南先生は急に元気を取り戻した。


「まず、仲良くなるために……」


「ふんふん」


「めっちゃ話しかけるようにしてる」


「それ、逆効果ですよ」


「えーーーっ!?」


 間髪入れずに突っ込むと、小南先生は驚愕の声を上げた。


(むしろ、なんで効果があると思ってたのよ……、この人)


「先生。それじゃ神田先生は振り向いてくれませんよ」


「……マジ?」


「まじ、です」


 アイナが珍しくあきれた顔をしている。


「女の子からしたら、先生のアプローチは微妙なんです」


「……うっそぉ」


 小南先生はぽかんと口を開けて放心している。


(いや、逃げられている時点で気づいてよ)


「でも、心配しないでください」


アイナは優しく小南先生に笑いかける。


「先生は素敵な人だって、私は知ってますから」


「大塚……」


「ちゃんとお話できるようになれば挽回できますよ」


 優しく、言い聞かせるようにアイナが告げる。

 すると、小南先生は苦しげに顔をゆがませて、肩を落とした。


「今から、やり直す方法を一緒に考えましょう」


「はい……よろしく、お願いします」


 さっきまでの自信はどこへやら。

 小南先生は膝に両手を揃えて、真剣に話を聞きはじめた。


「まず、神田先生は落ち着いた大人の女性ですよね」


「うん」


「お休みの日も、ゆっくり歩いたりするのが好きみたいです」


「へぇ……」


「小南先生は、神田先生をデートに誘ったことありますか?」


「今日、駅前のカレーショップ行こうって誘ったけど」


「はい、NGです」


 小南先生は「え、駄目なの?」って感じできょとんとしている。

 ふと隣を見ると、渋谷くんも同じ顔をしていた。


(この男たちは……)


「藤田先輩は、カレーショップは鉄板だって言ってたのにな……」


「藤田先輩?」


「いや、俺の知り合い。こっちの話」


「まぁいいです。とにかく、女の子の気持ちを勉強しないと駄目ですね」


「大塚先生、よろしくお願いします!」


 ついには先生呼ばわりだ。

 私は呆れつつ、渋谷くんと顔を見あわせた。


「なぁ、小南先生がコーチで大丈夫だと思う?」


「知らないよ、そんなの」




 その後、アイナの講座は1時間ほど続いた。


「匂いのある食べ物はちょっと遠慮したいんです。あと、ゆっくりできる雰囲気じゃないですよね。駅前のカレーショップは」


「そうか……」


「誘うなら、神田先生の好みを聞き出してからですね」


「まず相手にしてもらえないから、困っているんですよ! 僕は!」


「そうですね。小南先生は少し、自分のことをアピールしすぎなんです」


「……え?」


「自分がどうした、自分はこうした、っていう話題が多いんじゃないですか?」


「よくわかるなぁ……その通りだ」


 アイナの推察に、小南先生は感心したようにうなずく。


「自分のことを知ってもらいたい気持ちは分かります。でも、興味を持ってくれてないうちは逆効果になんですよ」


「なるほど」


「追う恋なんですから、欲張らないで」


「まずは相手の話を聞く……ってことか?」


「はい、その通りです! よくできました!」


(それにしても……長い)


 2人のやり取りを遠目に見つつ、私はため息を吐いた。

 隣では渋谷くんが、呆れた表情で小南先生を見守っている。


「なんか、大塚ひとりで解決しちゃいそうだな」


「……だね」


私も、ここまで盛り上がるとは思っていなかった。


(神田先生の好みとか、ちょっとアドバイスするだけのつもりだったのに)


 アイナが頑張る姿を見ていると、止める気にもならない。

 仕方がないので、私は渋谷くんと共に蚊帳の外。

 特に話題もなく、時間が過ぎるのを待っていた。


「うん、ここまでわかってもらえれば大丈夫です!」


 時計が午後5時近くを指す頃。

 ようやくひと段落したのか、アイナが席を立った。


「明日から、焦らずにお話してみてください」


「大塚“先生”ありがとうございますっ!!」






 次の日、保健室でお昼を食べていると、渋谷くんがやってきた。


「……おす」


「あれ? どうしたの?」


「小南先生、どうなったかと思って」


 保健室に神田先生の姿はない。


「まだ、2人とも来てないよ」


「そか……飯、一緒に食っていいか?」


 ちらりとアイナに視線を送る。

 彼女はちょっと視線を揺らして、にこりと笑った。


「どうぞ」


 その一言をきっかけにして、渋谷くんは私の前に座った。


「なぁ大塚、小南先生は大丈夫なのか?」


「たぶん、昨日よりはマシになってると思うけど」


「大塚先生が言うなら安心だね」


「あはは……もう、やめてよカオリちゃん」


 アイナが照れたように笑う。

 その時、廊下の方から大きな足音が聞こえて来た。


「お、生徒が来たみたいだな」


「渋谷くんまで、やめてよぉ」


 アイナは小さく笑って、そっとお弁当箱のふたを閉めた。

 ほぼ同時に、保健室の戸が開かれる。


「大塚“大先生”!!」


(今日は大先生ときたか)


 戸口に目をやると、小南先生がガッツポーズをしていた。

 表情も明るく、喜色満面といった感じ。


「その様子だと、上手く行きましたか?」


「はい! 初めて会話が続きました!」


「よかった!」


 アイナは立ち上がって、小南先生に駆け寄っていく。


「それゃあ、今日から宿題を出しますね」


「宿題?」


「デートプランを立てましょう」


「は、早くないか?」


「すぐに誘う訳じゃないですよ。相手からどんなことを聞き出すかを固めるためです」


 アイナはしたり顔で、ぴんと人差し指を立てる。


「その方が、自然に誘えますよね?」


「なるほど! わかりました!」


 アイナは気後れせずに、明るく振る舞っている。

 傍から見ると、すっかり先生と生徒みたいな関係だ。


「小南先生、よかったですね」


「おめでとうございます」


「よせよ……2人ともありがとうな!」


 私と渋谷くんが、小南先生の頑張りを祝福する。

 そこに、アイナが笑顔のまま声をかけた。


「ところで先生」


「なんだ?」


 小南先生が振り返り、首を傾げる。

 アイナはちらりと渋谷くんに目をやって、口を開いた。


「デートに誘えたら、コーチの件を考えてくれるんですよね?」


「おう! 任せておけ!」


 念を押す言葉に、小南先生が勢いよく答える。


(うわぁ、思った以上に上手くいってる……)


 これならコーチの件も考えてもらえるだろう。

 すっかり安心して、私は息を吐いた。


(結局、アイナに頼ることになっちゃったけど。結果オーライ、かな?)


 でも、まだまだこの騒動は、終わったわけではなかった。

 このデートプランをめぐって、なぜか私が巻き込まれることになる。


 話したくもない。超迷惑な話だ。



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