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1-1 ステージ

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 城崎悠人しろさきゆうとの存在感は圧倒的だった。


 文化祭。学校中が生徒たちの活気に包まれる中、ひときわの熱気と盛り上がりを見せているのが体育館だった。軽音部によるステージ。


 電子音が奏でる騒音にも似た音楽。添えられる黄色い歓声。正直なところ、それは私の得意とする種類の音楽じゃなかった。私はクラシック贔屓なのだ。だからヒートアップする一方のステージには、開始五分で辟易もした。何より、ファンであろう女子生徒たちの声が耳障りで、ますます私をネオンきらめく大都会に迷い込んでしまった田舎者みたいな気分にさせる。


 ステージから離れた席でそんな風にぶつくさ思ってた私ではあるけど、でも、それは認めざるをえなかった。


 城崎悠人の存在感は、圧倒的だ。


 電気楽器に混じり、ステージの左半分をでんと占める漆黒のグランドピアノ。怪物が口を開くかのように黒光りする蓋が開けられたそれは、ドラムセットよりもはるかに大きく思えた。そんな巨大な黒い楽器を、城崎悠人は馬の手綱でも引くように、付き従えと言わんばかりに意のままに操る。その指は転がり、跳ねるように力強く鍵盤を叩く。革靴の右足がペダルを踏む。解き放たれた重厚な和音は、私のもとまで飛んでくる。


 城崎悠人の存在感だけが、私に刻みつけられた。


 アンコールも含めて三十分弱のステージは、曲ではなく城崎悠人の強烈なイメージだけを私に残して終了した。


 ほかのバンドメンバーとともに挨拶してから、悠人は身軽にステージから飛び降りた。彼がスマートに着地した瞬間、ファンの女の子たちから黄色い歓声が上がる。バンドメンバーは皆、黒いパンツに白いワイシャツ、黒いネクタイといった揃いの格好で、明るい茶髪にピアスといった悠人はさながら夜の街のホストみたいだった。整ってはいるけど、どこか人をおちょくっているような口の端を上げた笑みがその雰囲気に磨きをかける。彼はズボンのポケットに両手を突っ込み、いかにも鷹揚な態度で女の子たちをかき分けるように歩いて――


 私のもとまでやってきた。


 はしっこの席にぽつんと座っていた私を、悠人は制服のズボンに両手を突っ込んだまま見下ろした。


 ――その薄い唇に笑みが浮かんでいたことの意味を、私は数秒後に知ることになる。



 悠人は素早く私の顎を捉えると、上半身を屈めて唇を重ねてきた。