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6話

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それから数日―――


少しずつ慣れてきた高校生活は、想像以上に楽しい。

授業は少し難しいけど、それも新鮮で楽しかった。




「席座れ~、授業始めるぞ~」




高校生活の中で、私が1番楽しみにしてるのは

村瀬むらせ先生の数学の授業。



担任だから、毎日会うけど

授業をしてる先生の姿は、格別にかっこいい。


教え方も上手で、苦手で嫌いだった数学が、好きになってきた。




「まず、前回の授業の最後に出した宿題。その答え合わせからだ。じゃあ、澤井さわい




村瀬先生、いつ見てもかっこいいなあ。

相変わらず、ホストみたいだけど


…って


今、名前呼ばれたような…




「澤井、聞いてんのか?  まさか、やってないなんて言わねえよな?」



「…わ、私ですか?」



「このクラスに、お前以外で澤井ってやつはいたか?」



「…いません…よね…えっと」



「宿題。教科書12ページの問1」




ちょっと待って、宿題って何?!

12ページの問1って何?!



慌てて机から教科書を取り出し、パラパラとページをめくり、言われた12ページの問1を探す。



この問題か…。

こんなの、今初めて見た…。


最悪。ほんっと、最悪!

よりによって、村瀬先生の授業で宿題を忘れるなんて…。


てか何で私からなの?!





「えっとー…わ、忘れました」



ゆっくりと顔を上げ、恐る恐る言うと

はあ…とあからさまに溜息をつく村瀬先生。



そんなワザとらしく溜息つかなくても…。




「お前、まじでやる気ねえよなー。まあいい。簡単だからわかるだろ?  今解け」



「いっ、今?!」



「これは中学の復習問題だ。思い出してみろ」




よく見ると、中学の教科書で見たような記憶がある。

だけど、残念なことに私が解いた記憶はない。




さきっ、わかる?」



コソッと小声で聞いてみるが



「NO」



即答された。




どうしよう、本当にわからない!

私、どうしてちゃんと中学で勉強しなかったんだろう。




「澤井、わからねえのか?」



「…わかりません」



「いいか、よく聞けよ?  これは―――」




正直にわからないと答えても、村瀬先生は怒ったりせず、丁寧に解き方を教えてくれた。




「てことはつまり、答えはいつくになるんだ」



「あっ!  30だ!」



「正解」



正解と言った村瀬先生は、ふわっと優しく笑って、その笑顔に胸がキュンとなる。



どうしよう、村瀬先生のこと

本当に好き…。

病気かと思うほど、いちいち村瀬先生の言動にドキドキしちゃう。



「美羽~、顔赤いよ~」



咲が私の顔を見て笑いながらからかってくるけど、それすら嬉しくて、テンションが上がってしまう。



退屈な授業も、村瀬先生の数学は最高に楽しくて幸せな時間で

このまま終わらないでほしいと思ってしまうほど。


だけど、時間はどんなときも一定の速度で進み、授業はあっという間に終わってしまう。 


その他教科は、まだ終わらないの?  と何度も時計を見てしまうのに…。




「―――じゃあ、今日はここまで…。そうだ、澤井」




授業の終わりを知らせるチャイムに、ガッカリしていると

再び、村瀬先生に名前を呼ばれた。




「は、はい!」



「宿題を忘れた罰だ。みんなのノート集めて数学準備室に持ってきてくれ」




これは、喜んで良いのか悪いのか…。



「…はい」



返事をすると、村瀬先生は教室から出て行き

クラスメイトがノートを持って、私の席へ寄ってくる。


次々と机に積まれていくノートを見て、溜息がこぼれた。





美羽みう、ラッキーじゃん」



「どこがラッキーなのよ…雑用押し付けられただけじゃん…」



「えー、でも数学準備室に行けば村瀬いるんじゃないの?」



「そうかなー。いないと思うんだけど」



「いるから頼んだんじゃないの?  まあ、ノートよろしく~」



「えー、咲も手伝ってよ~」



「私トイレ行きたいから無理~。がんばれ~!」




薄情な咲は、レミちゃんを誘ってさっさとトイレへと行ってしまう。



別に、ノートくらい1人で運べるけどさ…

もし、数学準備室に村瀬先生がいたらと思うと、緊張する。



何か言った方がいい?

宿題忘れてすみませんでした…とか?


失礼しますって言って入って

これノートですって渡して

失礼しましたって言って出ればいい?


どうしよう、緊張で震えてきた。

というか、何でこんな緊張してるんだろう。


別に難しいことでもないし、緊張することでもないはずなのに…。



頭の中で何度もイメージトレーニングをしていると

気付いたら、数学準備室の前にいた。



ついに、到着…。



「…ふう」



失礼しますって言って入ればいいんだよね。



よしっ!!  開けるぞ!!




「し、失礼しまーす…」



意気込んだわりには、思いのほか小声になってしまったが

ドアを開けると、タバコの香りとシトラスの香りが混ざった、何とも言えない大人の匂いがして、ドキッとした。



「おう、澤井か」



チラリと私を見てタバコを吸う村瀬先生は、大人っぽくて、その仕草に私の心臓は破裂寸前だ。



ていうか…タバコって校内で吸って良いの?

分煙だ禁煙だってうるさいこの時代に

校内で喫煙は絶対ダメだと思うんだけど…。




「澤井、ドア閉めろ」




ドア…?




「…?  は、はい」



「タバコの匂いが漏れると、他の先生がうるせえからな」




やっぱり!!

校内で喫煙ダメなんだ。


ていうか、ドア閉めても漏れると思うんだけど…。



「校内って、禁煙ですか?」



「当たり前だろ。昔は平気だったけどな」



「そう、なんですか…」




この人、本当に教師っぽくない。

というか、教師として必要なものが欠けている気がする…。




「俺がここでタバコ吸ってること、誰にも言うなよ?」




フッと笑いながら話す村瀬先生は、言葉とは裏腹に、別にチクられても構わないって感じで、チクる気もなくす。


まあ元々、そんな気全くなかったけど…。



「はい、言いません」



「ははっ。俺と澤井だけの秘密な」



「えっ…」




村瀬先生と、私だけの…秘密…。


どうしよう、さっきからドキドキが止まらない。


別にたいした秘密でもないけど、2人だけの秘密とか、すごく特別な感じ…。




「ノート、その辺に置いといてくれ」



「あ、はい…」



ドキドキしすぎて忘れかけていたノートを、近くにあった棚の上に置く。


さて、これでここにいる理由がなくなった。


出て行かないといけないのに、嫌がる私の体は、なかなか動こうとしない。



「あっ、あの…!」



「ん?  どうした」



「えっと…」




もう少しここにいたくて、思わず声を掛けてしまったが、特に話すことなんてない。



「何だ?」



「えっとー、その…宿題!  わ、忘れてすみませんでした…」



とっさに出た言葉は、ここにくるまで言おうか迷っていた宿題のことだった。



「ああ。別に構わない」



だけど、そんな話が広がるわけもなく

一言で終わってしまう会話。


とうとう、ここにいる理由がなくなり

仕方なく、帰ろうと足を動かしたとき



「もう少し、勉強しろ」



村瀬先生が、タバコを灰皿で揉み消しながら口を開いた。



「え…?」



「バカすぎる。あのレベルの問題が解けないとは思わなかった」



バ、バカすぎる…?!



「あの問題が解けなかったやつ、他のクラスにはいないぞ」



「…えっ」



「中1の問題だぞ。基礎中の基礎だ。あれが解けなかったらこのあとは絶望的だ」




ちょっと待って…。

この人、生徒にバカって言った?


あり得ない…。


やっぱり、教師として必要なものが欠けている…。



ていうか…



また、好きな人にバカって言われた。




「…バカで、すみませんでした」



「別に謝れとは言ってねえよ」



「…そうですか」



「苦労するのは澤井だ。高校は中学と違ってできねえやつは留年になる。そうならないためにも、勉強しておけ」



「…はい。それじゃあ、失礼します」




さっきまで、ここを離れたくないと思っていたのに

今は、さっさとこの場から立ち去りたくて

村瀬先生の顔を見もせず、早足に数学準備室を出た。



私にとって、‘‘バカ”という言葉はトラウマになっているようで

言われた瞬間、目の前が真っ暗になった。


こんなことなら、さっさと立ち去るべきだった。

数分前まで、あんなにドキドキして舞い上がっていたのに、一気にテンションが下がる。 




「あ!  美羽~、おかえり。どうだった?  村瀬いた?」



教室へ戻ると、咲とレミちゃんがニヤニヤしながら声を掛てくるが



「ううん、いなかったよ」



私は、さっきのことを話す気にもならなくて

2人に嘘をついた。