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7話

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美羽みう、このあとサボらなーい?」



授業が始まる寸前、ダルそうに声を掛けてくるさきの誘いに



「うん、そうしよう」



私も乗る。



今日は、授業を受けるテンションじゃないし、むしろ帰りたいくらいだ。



きっと堂島どうじまくんに、「バカは論外」と言われて振られた過去がなかったら

村瀬むらせ先生にバカと言われても、全然気にならなかっただろうし


私が堂島くんに告白する前に、恋愛を経験していたら、トラウマになったりはしなかったと思う。


そんな言葉でいちいち落ち込んだり、トラウマになったりしてるなんて、バカバカしくて呆れてしまうけど、忘れることができない。




今日は珍しくレミちゃんもサボるらしく、3人で例の空き教室へと向かった。



「あ~、お腹空いた~」



空き教室へつくなり、パンを食べ始める咲は

痩せの大食い。

細いのにビックリするくらい良く食べる。



「咲ちゃん、いつも何かしら食べてるね」



「うん、すぐお腹空くんだよね~。燃費悪いみたい。今の時代、低燃費が主流だっつーのに。私の体はエコじゃないわ~」



「あははっ、何それ!  美羽ちゃんは?」



「私は…人並みかな」



「嘘つけ!  美羽は全然食べないじゃん」



「私は普通。咲が食べ過ぎなんだよ」



「本当、私って食べ過ぎだよね?  食費掛かるんだよね~。お小遣いがすーぐなくなる」 





こんなくだらない会話でも、いつもなら楽しめるのに、今日は全然楽しめない。


咲は、私の作り笑いを見抜いていて

チラチラと心配そうに私を見ているけど

コロッと気分を変えられるほど、私は大人じゃない。



「ちょっと、トイレ」



作り笑いをしている自分にも

咲の心配そうな視線にも

楽しそうに盛り上がる2人の空気にも

何だか疲れた…。



「美羽、大丈夫?」



「うん?  何が?  平気だよ」



「…そう」



村瀬先生だって、悪気があったわけじゃないだろう。


今のままの学力だと苦労すると思って、心配してくれただけ。


まだちょっとしか知らないけど、言葉を選ぶような人ではなさそうだし

堂島くんの言う‘‘バカ”とは、意味合いが違う。



だけど、問題なのは好きな人にバカと言われたことで

その言葉に込められた意味は関係なく、重要ではない。


‘‘バカ”という言葉が、トラウマなんだ。





静かな廊下を、ゆっくりと歩く。



廊下の窓から見える桜は、もう散り始めていて

風でヒラヒラと舞う花びらが、妙に儚かった。




そういえばこの前…


私に壁ドンしたあと、村瀬先生は廊下の窓から外を見ていたけど、桜でも見てたのかな…? 


村瀬先生と桜…。

なんか、似合わないなあ。




外を見ながら考えていると

階段を登ってくる足音が聞こえてくる。



「…やば」



見つかると面倒くさい。

この階の教室は使われてないから

ここに生徒がいるのは不自然だ。


問い詰められてて、あの空き教室がバレたら、咲にめちゃくちゃキレられる。



だけど、隠れるのも面倒で

だからって、咲たちのいる空き教室に戻るのも、気が乗らず


どうしようか…と考えている間に



「澤井、まーたサボりか」



村瀬先生に見つかった。




違う先生ではなく村瀬先生で安堵あんどしたが、今最も会いたくない人物だ。


村瀬先生に会うくらいなら、ゴキブリやクモに出会った方がマシだった。




私を見て呆れた顔をしながら、ポケットに手を突っ込み、ダルそうに歩く村瀬先生の姿は、仕事終わりのホストみたい。

やっぱりどう見ても、教師には見えない。



どうしたら、そんなダルそうな雰囲気を醸し出せるのか…



「英語の先生が困ってるぞ。澤井たちがいないんですぅ!  って」



私の隣に立ち、窓枠に腕を乗せて、私と同じように外を見る村瀬先生は

英語の先生の真似をしながら話す。




「…だって、あの先生嫌い」



「嫌いってな~…。小学生みたいなこと、言ってんじゃねえよ」



「…だって、英語って必要ですか?  私、日本人だし。高所恐怖症で飛行機乗りたくないから、海外旅行するつもりないですし」



「今の時代、そんなこと言ってんの澤井くらいじゃねえの?」



「そんなことないです。咲も言ってました」



「似た者同士か」



「そうですよ。だからずっと仲良しなんです」



「そうか、そりゃ良かったな。で?  斎藤たちはどこ行ったんだ。あの空き教室か?」 



「え…、まあ…はい」



「そうか。で、澤井は何で廊下にいるんだ?」



「いや…、何となく…」



あなたのせいで気分が落ちてるから、1人になりたいんです。



とは、さすがに言えなくて、曖昧に笑って誤魔化した。




「何となくなら、授業出てこいよ」



「だって、英語嫌いだし…」



「じゃあ、何が好きなんだ?」



好きな教科…?

そんなの、ない。全部嫌。


だけど



「…数学」



村瀬先生の数学は、ちょっと好き。





「はあ?  数学が好きなのか?」



「え、ダメですか?  好きですよ、数学」



「そのわりには、中1の問題も解けてなかったじゃねえか」



「違いますよ。村瀬先生の数学が好きなんです」



「は?  俺の?」




……あれ?


私、今、何て言った?




「えっ?!  あ、いやっ…」




やばい、口が滑った!!

思ってたことが、口に出ちゃった…!




「俺の授業、楽しいか?」



「えっと…その…」




どうしよう…何て言えばいいの…?




「何だよ」



「そのっ…楽しいっていうか…すごくわかりやすい…。丁寧に説明してくれるから、スラスラ解ける…」




上手く誤魔化せず焦る私に、早く言えと目で訴える村瀬先生。

恥ずかしさに耐えながら、言葉を絞り出すと




「そうか」



村瀬先生は、一瞬きょとんとした顔をして

フッと、柔らかく笑った。


初めて見る村瀬先生の穏やかな顔に、胸が高鳴る。




「さっき、バカって言って悪かった」



少しの沈黙のあと、村瀬先生が窓の外を見たまま、気まずそうにポツリと呟く。



「…え?」



それは、予想外の言葉だった。


空耳…か?


自分の耳を疑い、驚いてジーッと顔を見ると

その視線に気付いた村瀬先生は、気まずそうに私を見て



「言葉を選ぶべきだったな。悪かった」



改めて、私に謝罪をした。




「…あ、いえ…」



「何つーか…澤井見てると、自分が教師だってこと、忘れる」



「…え?」



「いや…何でもねえ。  気が向いたら授業戻れよ」




そう言って、去っていく村瀬先生。



私を見てると、教師ってことを忘れる…

って、どういう意味…?


ていうか、もしかして…

謝るためにここに来たの?



その疑問を晴らしたいけど、村瀬先生の姿はなかった。

少し話しただけで心が晴れた私は

とりあえず、咲たちの元へ戻ろうと足を進める。



トイレと言って出たはいいけど、結構時間が経っちゃった…

どうしたの?  って聞かれたら、何て言おう…。


言い訳が思い付かず、ふう…と息を吐いて、空き教室のドアをゆっくり開けると



「二ヒヒッ、美羽~、村瀬とイチャコラしてんじゃないよーっ」



「も~っ、ニヤニヤが止まらないよ~っ!」




咲とレミちゃんが、絵に描いたようなニヤけ顔で待っていて

2人の言葉に、自分でもわかるくらい、ほほが緩んだ。