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1-7 付き合ってる

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 誰かと手をつなぐなんて、いつぶりだろうと思った。


 悠人の大きな手。しばらくするとその大きさはよくわからなくなって、接した手のひらの境界線が曖昧になっていく。


 校舎前から校門までの、屋台の並ぶ一角に出た。ためらうことなく前に進む悠人に、半ば手を引かれるようについてく。


 自分たちに注がれる視線の多さに体が強張っていく。


 屋台で焼きそばを焼いてる男子、チラシを配ってるメイド服の女子、パンフレットを見ながらしゃべってた女子グループ。誰も彼もが、遠慮なく私と悠人に目を向けてくる。


 人に見られることに慣れてない私はすぐに顔が赤くなったのに、一方の悠人は顔色一つ変えてなくて、平然そのもの。


 なんでこんなにフツーなの?


 綿菓子の残りを食べつつ悠人は私の手を引く。しれっとしすぎてて腹立たしい。その一方で、私は痛切に思い知る。悠人がこんなにも人目を引く人種だったとは。予想してしかるべきだったけど、まったく知らなかった。ますますもって住んでる世界が違いすぎる。私なんかが彼女役でいいの、ホントに。


「どこか見たいところある?」


 悠人は向けられる視線なんてまったく意に介さず、私の顔を覗き込むように訊いてきた。


 何コレ、本当に彼氏みたいだ、なんてわずかにドキリとしつつ、必死に平静を装う。


「三時から吹部のステージがあるから。それまでで見られるとこならどこでも」


「へー、演奏すんの?」


「さっきの体育館でね」


 私の言い方が面白かったんだろうか。悠人は軽く笑って、綿菓子のなくなった割り箸をくわえる。


 今さら疑問に思う。私が吹奏楽部だってこと、悠人は知ってたのかな。というか、私のことどれくらい知ってるんだろ。


「それ、観に行ってもいい?」


「無理しなくてもいいよ」


「別に、無理なんてしてないし」


 悠人はつないだ手を引いて、少し私を引き寄せた。


 ドキリとする間もなく耳打ちされる。



「彼氏だったら行くでしょ?」



 悠人は、私の反応を見て面白がってるのかもしれない。ちょっと悔しくて、私も悠人に耳打ちし返した。



「彼氏だったら、ね」



 私たちのルールはシンプルだ。


 それぞれの意中の相手に見せつけるために、それぞれを利用すること。


 完全に望みがなくなったら、ほかに好きな人ができたら、フリは即解消すること。




「そういや、お前、なんの楽器やってんの?」


「トランペット」


「ラッパ? あんまかわいげねーな」


「カッコいいって言ってくれる?」


 いかにも仲良さそうな――タクと萌美がイチャついてたのを思い出しながら、私は悠人と手をつなぎ、わざとらしいぐらいはしゃいだ声を立てながら歩いてく。




 私たちは『付き合ってる』、ことになっている。